ニーズとウォンツの違いを押さえておく重要性

ビジネスに携わっている人で「ニーズ」という言葉を聞いたことのない人はおそらく一人もいないだろう。似たような言葉に「ウォンツ」という言葉もあるが、「ニーズ」という言葉よりも使用頻度は下がり、使ったことがない人もいるかもしれない。

筆者は事業会社でマーケティングの責任者をしているが、最近、この「ウォンツ」という言葉にもっと意識を当て、積極的に使用した方が良いのではないかと感じるシーンに出くわす。「ニーズ」と「ウォンツ」を混同することでビジネスにおける重要な視点が抜け落ちてしまっていることが多いと感じるのだ。

今回はこの似たような言葉である「ニーズ」と「ウォンツ」の違い、そしてこの言葉を使い分けて使うことの重要性について語りたい。

ニーズとウォンツの違い

ニーズとウォンツはどちらも顧客の欲求を表す概念だ。顧客が何を望んでいるかを知ることは、自社のサービスや商材を提供する大前提であることに異論はないだろう。では、この2つの概念は何が違うのか?あるビジネス書には以下のように定義されている。

ニーズとは、衣食住などの生理的なことから社会的、文化的、個人的なことに至るまで、様々な事柄に対して人間が感じる「満たされない状態」のことだ。これに対してウォンツは、ニーズを満たすために製品化されたものを求める感情、つまり「具体的な製品・サービスへの欲求」を意味している。

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イマイチ違いがピンとこない人もいるかと思うので、さらに噛み砕いて以下のように定義しても良いだろう。

  • ニーズ:必要なものやサービス
  • ウォンツ:欲しいものサービス

「必要だったら欲しくなるのではないか?」という考え方はマーケティング的には詰めが甘い。なぜなら消費者は「必要だから」だけでは商品やサービスを選択しないからだ。

例えば、トイレットペーパーは日本で生活するほぼ全ての人に必要なので強いニーズがあると言える。ただ、必要という理由だけで、数あるトイレットペーパーの中から自社製品が顧客に選ばれる保証はない。

では、どのように顧客はトイレットペーパーを選ぶのか?その選ぶ理由こそがウォンツだ。具体的なウォンツとしては以下のようなものが考えられる。

  • とにかく安いトイレットペーパーが欲しい。
  • お尻を拭いても破れない丈夫なトイレットペーパーが欲しい。
  • トイレが華やかになるように色と柄の綺麗なトイレットペーバーが欲しい。
  • お尻が弱い人にも優しい、柔らかいトイレットペーバーが欲しい。

いずれもただのトイレットペーパーではなく「〇〇なトイレットペーパー」という付加価値のついたものになっており、付加価値のついたものがウォンツになりうる。ウォンツになって初めて顧客は数ある製品の中から自社のトイレットペーパーを購入してくれる。つまり以下の公式が成り立つ。

ニーズ+付加価値=ウォンツ

マーケティングの実務をしている中でも、ニーズという言葉だけで肝心な付加価値に関する議論がおざなりになるケースが散見される。だからこそ、ニーズとウォンツの言葉を使い分けて思考することが重要なのだ。

高い価格で売れるのはウォンツ

ニーズとウォンツの違いがわかったところで次に重要なことは、ニーズだけよりウォンツの方が高く売れるということだ。そしてどれくらい高い値段で売れるかは、付加価値が顧客にとってどれくらい大きいかに依存する。「顧客が高いお金を払っても欲しいと思わせる付加価値があるか」ということだ。

ここで例として高級腕時計を考えよう。ロレックスなどに代表されるブランドものの腕時計は数百万円するものも多いが、それでも買う人がいるから販売している。では、腕時計の何を高い付加価値として評価しているのだろうか。考えられるものをいくつかあげてみる。

  • 古くから伝承されてきた機械式時計を制作する高い技術
  • 機械式時計の技術に対する職人自身の想い
  • 簡単には劣化しない素材
  • メーカーのブランドストーリー
  • 腕時計をすることにより誇示できる社会的ステータス

他にもあるかもしれないが、上記のような付加価値を高く評価する人たちある一定数いるからこそ、高級腕時計の市場は成立している。つまり、マーケティング的観点では企業はサービス・製品を販売する際に以下のことを考慮しないといけない。

  • 人々に高く評価される付加価値は何か?
  • その付加価値を評価してくれる人はどれくらいいるか?

この2点の掛け算で、企業の売り上げが決まるといって良いだろう。

まとめ

ニーズとウォンツは似ているような言葉だが、人の購買心理を考える上でしっかり分けて考えないと、自社製品やサービスのマーケティング施策を行なっていく時に、大切な視点を見落としてしまう可能性がある。ただの用語ではなく、ビジネスを考える上での基本的なフレームワークの1つとして日頃から意識していくと良いと思う。